雲の立ち上る朝日山
松江市玉湯町布志名(ふじな)から見た朝日山。出雲の国名にふさわしい雲の立ち上る姿を宍道湖の対岸から捉えた。
さて、この山は秋鹿郡域では最も標高の高い山(344m)で、よく目立つ。
『風土記』秋鹿郡には5つの山野の記載があり(391~399)、方位里程から見ると、東から順に記され、神名火山・足日山・安心高野・都勢野・今山となる。
問題はその高さであるが、最古の写本である細川家本では最も高いのは安心高野の180丈、続いて足日山170丈で、神名火山は40丈の低い山である。これに対し、いわゆる補訂本系写本、岸崎時照の記した『風土記抄』の採用する本文は、神名火山が230丈とされており、一番高いことになる。
日本古典文学大系の『風土記』などはこの『風土記抄』の高さを採用しこの朝日山を神名火山とするが、郡家からの方位(東北)から見てもこの山を神名火山とするのは困難で、名前からも足日山(あしひやま)とみるべきであろう。
さて、岸崎時照は『風土記抄』でどのように理解しているかというと、朝日山は足日山であるとしている。実際の地理に詳しい岸崎は、自分が記した本文に基づけば朝日山は神名火山としたいとこであるが、そうしていない。
おそらく、岸崎は自分が採用した本文の神名火山の高さ230丈は誤りである、と考えていたと推測される。現在、補訂本系風土記本文は岸崎の記した『風土記抄』が最も古いのであるが、そのテキストの元がどこにあるのかを考えさせる事例である。
(2017年6月7日撮影)
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