【佐比売山 さひめやま】
【2015年5月21日撮影】
『風土記』に見える佐比売山は、現在の三瓶(さんべ)山(最高峰の男三瓶が標高1125.8m)である。この山はいわゆる国引き神話(56)と、飯石郡の山(776)にみえ、ともに「石見(国)と出雲(国)の堺」と表現されている。写真は島根半島の西端に近い、出雲市大社町杵築西の奉納山から望んだもので、薗の長浜がみえる。国引き神話では、新羅から引き寄せた杵築の御崎をつなぎとめた杭が三瓶山で、その時引いた綱が薗長浜とされる。まさに『風土記』の国引き神話を体感することのできる場所で、現在は自動車で山頂に上がることができる(山頂に駐車場あり)ので、ぜひ訪ねてほしい。
さて、三瓶山は御覧の通りの独立峰で、非常に目立つ。ただし、『風土記』を見ても出雲国内には佐比売山神社はなく、『延喜式』神名下の石見国を見るとこの山に当たると思われる安農郡(今の大田市)に佐毘売山神社があるほか、遠く離れた美濃郡(今の益田市)にも佐毘売山神社がある。
富士山が静岡なのか山梨なのかではないが、佐比売山の神は、出雲より石見国内で広く信仰されたとみられる。この理由はまあいろいろあると思われるが、出雲西部の主要河川である神門川の主水源は飯石郡の琴引山で、出雲国内では三瓶山を水源としている地域は極めて限られている。
これに対し安農郡、迩摩郡東部の主要河川となる三瓶川・静間川の水源がこの三瓶山であり、のちに一宮とされる物部神社も静間川の用水地点に位置しているなど、この山を水源としている人々は圧倒的に石見国にに多かったこともその理由の一つではないだろうか。 (平石 充)
※次回の投稿は5月20日(土)です。