【宇比多伎(うひたき)山】
今回の宇比多伎山は、『風土記』をある程度呼んでいる人にはすぐ?となったろう。 それは『山川』に対応する行数がない、すなわち細川家本になく、補訂本系写本にのみ見える山名だからである。
この宇比多伎山は『山川』の神門郡695行目に当たる。吉栗山割り注のあと、「家東南五里…」の間で、山名が抜けていると考えられる。なお、めずらしくここは『山川』もつづく山名のルール(大神の御○とされる山は、○山)に従って、細川家本にない「屋山」を補っている。
さて、この宇比多伎山について、最古の補訂本である『出雲風土記抄』は、明快にその所在地を論じており、それは朝山郷説話に見える真玉着玉邑比日女と大穴持命をまつる宇比多伎明神(現朝山神社)があるからとしている。また、他の五山についても宇比滝の左右前後の山であるとしている。
このことから、宇比多伎山が17世紀にあったことは確実で、さらに補訂者は現地をよく知るというか、続く五山も含めこの山の周辺に想定していた人物とみられる。
【朝山森林公園展望台 2015年8月2日撮影】
さて、その点をおいてこの地の朝山神社奥の展望台に経ってみると、なんと大社湾までが見通すことが出来、眼下には谷を蛇行する神戸川を眺めることができる。
そしてこの左側に雲井(うい)滝がある。
全体は撮影時でも見渡せなかったが、落差は100~120mで、おそらく出雲でも最大級の滝である。水量が少ないとの意見もあるが、おそらくそのようなことはない。
【雲井滝 2015年8月2日撮影】
いってみるとわかるのであるが、この山は山頂部が平らなテーブルマウンテンで、水田が広がっている。その平坦面から流れ落ちる滝がこの雲井滝なのである。
これも特徴的な地形であり、この地が注目された理由は考えるべきであろう。
※なお、昨年土砂崩れで参詣用の道路が被災していますので、道路状況を確認の上ご来訪ください。
※次回は6月25日に更新します。
・写真は加工されており、資料的価値ありません。写真としてお楽しみください。
・本文中のアラビア数字は沖森卓也・佐藤信・矢嶋泉編『風土記』山川出版の行数です。 ・解説は撮影者によるもので、出雲古代史研究会の公式見解ではありません。
・写真の無断転用はお断りします。