委員 武廣亮平
本書は古代の出雲国地域における5世紀頃から9世紀前半までの歴史のうち、出雲国造の性格や国内氏族の動向、『出雲国風土記』やその関連史料から復元される古代出雲の在地社会の様相、神社の異動などを論じたものです。
一つのテーマで括られる内容ではないので、個人的には『古代出雲国の諸問題』といったタイトルの方が良かったのですが、出版社サイドからすると「諸問題」という曖昧な表題はNGなんだそうです(確かに「諸問題」と銘打った古代史の研究書は、井上光貞『日本古代史の諸問題』くらいしかありませんね)。
掲載論文はほぼすべて『出雲古代史研究』を中心とした既発表のものですが、その後発表された出雲古代史研究の成果も踏まえて、議論の内容を「アップデート」することに非常に苦労しました。特に第2章の神賀詞については多くの研究者がさまざまな観点から論じているところであり、自説を展開するところまでには至りませんでした。今後の宿題です。
また第8章や第9章も大幅に加筆しました。第9章では大原郡の郡家についても言及したのですが、旧稿発表後に発掘調査が行われた郡垣遺跡(いわゆる大原郡の「旧郡家」)の成果もうけて、内容を充実させました。どの論考も私の意見の当否はともかく、現在古代の出雲国または『出雲国風土記』を題材とした研究で何が議論されているのかという議論の到達点はまとめられたのではないかと思います。
最後に本書の構成を紹介します。
序 章 出雲古代史研究と本書の概要
第Ⅰ部 出雲国造をめぐる諸問題
第1章 東西出雲論と出雲国造の成立―論点の整理と展望―
第2章 出雲国造神賀詞と出雲国造
第Ⅱ部 古代出雲の部民制・氏族と交流
第3章 額田部臣と出雲の部民制
第4章 日置氏と六世紀の出雲
第5章 勝部氏の性格と出雲の勝部氏
第6章 畿内における出雲氏とその性格
第7章 出雲国の移配エミシとその反乱
第Ⅲ部 『出雲国風土記』と古代出雲の実態
第8章 出雲国における官社の成立とその変遷
第9章 『出雲国風土記』の在地史料