伊藤 剣(明治大学法学部 教授)
本ブログで拙著をとりあげていただくことになりました。文学研究の立場から古代出雲に関心を寄せる筆者にとり、史を論じる場に機会を頂戴したのは光栄な話です。それだけに緊張しきっており、キーボードをたたく手の震えも止まりませんが、一筆認めてみます。
行政文書として成立した『出雲国風土記』が実務的な性格を帯びるのは当然ですが、そこにいかなる文学性や思想性が認められるのかを問うてみたい――これが拙著をまとめた動機です。意識したのは、本風土記の勘造者たる出雲臣広嶋が国家とどう向き合ったのかということと、文字で記された〈記載文学〉として『出雲国風土記』を評価することとの二点です。
特に、官撰の史書たる『日本書紀』に広嶋がどう対峙したのかという点は筆者の主要な関心事であり、『日本書紀』の受容という観点から卑見を展開することに力を注ぎました。
こうした意図の下に、この度は次のように拙著を構成しました。
序章 現伝『出雲国風土記』をめぐる筆者の問題意識
第1部 律令官人と風土記-行政文書としての風土記の性格-
第1章 実務性と表現効果
第2章 律令官人出雲臣広嶋の風土記編纂意識
第3章 地誌における政治的主張
第2部 現伝『出雲国風土記』の成立とその構成
-『日本書紀』の神話と『出雲国風土記』-
第1章 『日本書紀』神代巻の受容状況
第2章 現伝『出雲国風土記』の『日本書紀』受容態度
第3章 出雲臣広嶋が期した風土記の構成
第4章 現伝『出雲国風土記』の成立をめぐって
第3部 『出雲国風土記』の世界観-大穴持命の「天下」-
第1章 大穴持命を中心とした神話世界
第2章 『出雲国風土記』の出雲と越
第3章 『出雲国風土記』における山川の位置付け
第4章 ヤマタノヲロチ譚への態度
第4部 『出雲国風土記』の文学性-文字化と編纂-
第1章 口誦と表記
第2章 郷次と『出雲国風土記』の編述
第3章 編纂物としての『出雲国風土記』
終章 出雲臣広嶋の思想書としての現伝『出雲国風土記』
なお、拙著刊行後に、「『出雲国風土記』と神話-神話を神話として記す風土記-」(『萬葉集研究』43、塙書房、2024年2月)も執筆しました。これは、『出雲国風土記』が神話を多く載録する点をとらえ、それが意図的な結果であると論じたものです。拙著と対になるものなので、あわせて御批正賜りますと幸いです。