舟久保 大輔
このたびは、拙著『古代王権の神話と思想』を紹介させていただけるとのこと、大変光栄に存じます。ありがとうございます。本書は、『古事記』・『日本書紀』の神話について、これを王権の起源や正統性を語る王権神話であるとの立場から、成立過程や歴史的背景を論じた研究書となります。すなわち、古代王権の展開過程において、『古事記』・『日本書紀』の神話はどのように位置づけられるのかを考えてみたい、というのが本書の目的となります。
以下に具体的な構成を示したいと思います。
序論
第1章 天孫降臨神話の成立
第2章 古代王権におけるタカミムスヒ尊の位置づけ
第3章 天孫降臨神話の司令神の変更について
第4章 天孫降臨神話の降臨神について
第5章 『風土記』における国譲り・天孫降臨神話について
第6章 国引き神話とヤツカミズオミズヌ命
-『古事記』・『日本書紀』と『出雲国風土記』の比較を通して-
第7章 「日の御子」思想の成立と意義
第8章 天孫降臨神話の「日向」と「高千穂」
-『古事記』・『日本書紀』に見る他界観に着目して-
第9章 伊勢神宮の創祀とその伝承について
第10章 「天皇霊」と「皇祖之霊」
第11章 古代日本の天下と山野河海
-『古事記』・『日本書紀』を中心として-
結章
構成を見て頂ければ明らかなように、本書は天孫降臨神話に関する分析が多くのウエイトを占めおります。それは、『古事記』・『日本書紀』を王権の正統性を語る神話であると考えた時、天孫降臨神話こそが、まさにそのハイライトシーンだからです。
しかしながら、天孫降臨神話を読んでいくと、よくわからないこと、疑問に思うことがたくさん出てきます。たとえば、そもそもこの神話はいつ・どのような歴史的背景の中で成立したのか、降臨を司令する神がタカミムスヒ尊やアマテラス大神という形で二神いるのはなぜなのか、タカミムスヒ尊というあまり知られていないこの神はどのような神なのか、なぜ、皇孫ホノニニギ尊は「日向」の「高千穂」に降臨するのか、など挙げればきりがありませんが、本書の第一章から第四章・そして第八章にて、筆者なりの考えを述べております。
第5章・第6章では、『風土記』の神話を取り上げました。第5章では『風土記』に見える国譲りや天孫降臨神話について、どのような意図から『風土記』編纂者はこれらの神話を受容しようとしたのかについて、第6章では、『出雲国風土記』のみに記載のある国引き神話の意義とその主人公であるヤツカミズオミズヌ命という神の性格について論じています。
第7章から第11章までは、古代王権の思想に関わる問題として、「日の御子」や「天皇霊」と「皇祖之霊」、さらに古代日本の天下について論じています。
以上が本書の概要ですが、やはりそのウエイトの大きさからもわかるように天孫降臨神話に関する分析が、本書の中で筆者が最も注力した部分となります。
その一方、出雲古代史と深く関わる国譲り神話について、本書ではあまり取り上げられませんでした。もちろん、この神話にも興味深い問題はたくさんあるのですが、これについては今後の課題とさせていただければと思います。
最後に、本書は筆者の博士論文を加筆・修正したもので、一冊の研究書としてまとめたものではありますが。個別に投稿した論文が基になっております。興味のある章だけでもよいので、ご一読賜われましたら幸甚です。