委員 橋本 剛
皆さんこんにちは。会員の橋本剛と申します。
この3月に、私も参加した論文集『伊勢と出雲』( #島根県古代文化センター 編、 #ハーベスト出版、2024年)が刊行されました。今回はこの論文集について簡単にご紹介します。
本論文集のもとになったのは、古代文化センターにおけるテーマ研究「出雲と伊勢」でした。テーマ研究は3年間という期限を区切り、外部の研究者なども加わって行う共同研究です。本研究は2020年(令和2年)~2022年(令和4年)まで行いましたが、客員研究員として主に伊勢側の方々をお招きしました。
さて、伊勢と出雲は、それぞれ伊勢神宮と出雲大社という著名な神社が存在する地域です。そうしたこともあって、国家形成期における両地域の重要性がしばしば強調され、また「伊勢と出雲」という形で並び称されることも少なくなかったと思います。本研究は、それぞれの地域の様相を分析しつつ、両地域が果たした役割やその関係性を明らかにすることを目標として設定しました。「伊勢」と「出雲」を併せて取り上げることで、これまで見えてこなかった両地域の特徴を析出できるのではないか、と考えたためです。
コロナ禍も重なり思うように研究会が実施できない時期もありましたが、3年間の共同研究をなんとかやり遂げ、その集大成として刊行されたのが本論文集というわけです。
本書の目次は以下の通りです。
【目次】
吉松 大志「神郡研究の現状と課題」
穂積 裕昌「志摩の海産物貢納と王権・伊勢神宮―神宮を支えた志摩の位相―」
久保田一郎「出雲、隠岐の海産物貢納に関連する問題」
平石 充「熊野大社・杵築大社の奉斎体制」
塩川 哲朗「伊勢と出雲の祭祀構造」
榎村 寛之「記紀における出雲と伊勢の神話的、歴史的位相について」
橋本 剛「平安初期の出雲と神社行政」
濱田 恒志「出雲の仏像・神像をめぐる「地域性」の問題
-「神話の国」の古代彫像をどう考えるか-」
田村 亨「鎌倉前中期の造営遷宮と幕府-杵築大社を中心に-」
藤森 馨「伊勢神宮と出雲大社の遷宮」
岡 宏三「杵築六ヶ村・宮内村の屋敷地の景観と荒神祭について
-十七世紀前後を中心に-」
松尾 充晶「近世御師の活動からみた伊勢と出雲」
品川 知彦「伊勢と出雲-浦田長民の宗教思想を中心に-」
一見して明らかなように、扱う時代や資料も異なるバラエティーに富んだ論文が揃っています。それぞれが、「伊勢と出雲」という重厚なテーマに果敢に挑み、生み出された研究成果といえるでしょう。
研究当初に設定した目論見が成功しているかどうか、その評価は読者の皆様に委ねるしかありません。本論集を1つのキッカケにして、両地域の研究がより一層盛んになればと願っております。